欲望と本能と理性とモラル…『倒錯者Aの告白』。

性的嗜好の面で、あんまり自分の性癖を考えたり 楽しんだりする性格でもないので、わが身を振り返ったり 興味本位で覗く事もないので、耳年増的に聞きかじりの 知識でしかない。 フェチと言うか、こう言う嗜好である、と言うのは、 他者から見ると肉体的にも精神的にも苦痛を 伴うようにしか見えないけれど、当の本人たちにとっては この上ない快楽を生み出すもので、その部分で 心底解り合えるのは非常に難しかろうに…なのに 出会ってしまったドS体質の刑事と、ドM体質の青年。 出会うまでは二人とも、自分の本性の性癖に全く 気付いておらず、出会った瞬間に覚醒した、等と言う 出会い方は実にBLファンタジーだが、そんなバカな、 と思う間もなく読み切ってしまった綺月陣の 『倒錯者Aの告白』。 壊しても殺してもいいから痛めつけてくれ、とかつての 様に東間を誘う嵐に、嵐を殺してしまうのは嫌だ、と 抵抗を試みる東間。 嵐脅迫事件他の部分で、ずっとハラハラさせられて いたのはこの点だった。 2人が出会うと核爆発が起こる、くらいの緊張感(笑) 首を締めれば下の締まりも良くなって感度が増す、 とはよく読んだり見たり阿部定事件なども知識として 知っていたりもするが、如何せん、自分にそう言う 性癖がないから解らんのである。 首を絞めたい人間と、絞めて欲しいと望んでいる 人間がいて、快楽が極度に高まっている最中に 「死んでもいいから絞めてくれ」と望まれて、 思い止まる時に、S側にどんな心…

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ぶっ飛び方にノって初めて楽しめる『倒錯者Aの告白』。

綺月陣作品には「カッコいい青年」が登場する。 見目麗しいのはもちろんだが、その男気と言うか、 決断をしなければいけない場面で問題を後回しにしたり、 感情のコントロールが効かなくて今は無理、と言うような そう言う弱音を吐かないカッコ良さと言うか。 肉体的には受けポジションだが、性格は男前で 受け≠女役ではなく、性的にそちらの方が気持ちいいので 受け側をしているが、それはあくまでも自分の 欲望を満たせられる方を選択しているからだ。 綺月陣のお気に入りが増えた『倒錯者Aの告白』。 元警官の東間の元へ、過去の亡霊宜しく美しい 青年が再び現れるところから物語は始まる。 二人は当然、過去に訳ありだろうけれど、その訳あり 具合の濃度と言うか密度が尋常じゃない(笑) この辺りの「離れ業的」な感じが、綺月作品の 特徴じゃないかと思う。 現実に照らし合わせると突拍子もないところまで 行っている様に思うのだが、それを「そんなバカな」と 思う間もなく、綺月作品の中へ引き込まれていく感じ。 上手い具合にフィクションの世界へ持って行かれる感じ。 言葉は悪いが、上手に騙してくれる、と言うか。 倒錯した性的嗜好を自覚せずに隠し持っていた二人が、 まさかのかち合わせ的出会いを果たすとどうなるか、 と言う偶然が偶然を呼ぶある種奇跡の話でもある。 性的嗜好と言う、極端に私的な部分は、もしかしたら 一生自分で気付かずに終わってしまうかもしれない ものであり、気付けば世界が広がる…

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ハードボイルドの匂い立つ『倒錯者Aの告白』①。

断筆?休筆?されるようなので、今から既刊作品を手に入れて おかないと、古本であっても高騰するかもしれない綺月陣作品 5作目になるのかな…『倒錯者Aの告白』を読んでいる。 最初の数ページですでに面白く、これは非常に好みである、 と断言していいかもしれない。 まだ半分くらい読んだ段階だが(笑) BLの中で、探偵ものもどきや、警察ものもどきや、ハードボイルド もどきは幾らも存在すると思うが、そう言う一般小説の体を 借りながら、やっぱり所詮BLの範中内ので「そう言うジャンルっぽい」 でしかないものが正直多い。 それはBLがやっぱり根っからの恋愛もので、例えば、事件や 捜査が事細かく書かれていても、肝心のメインキャラの男×男の 恋愛が後回しにされるような出来であれば、ある意味それは BLとしては失敗なんである。 この辺が難しいところだ。 ジャンル内で「○○ジャンルっぽい」はどの作品にも言える事だと 思うが、恋愛小説は何も特別な舞台を設けなくても、日常の中にも 描けるものであって、もし舞台を設定するとなると、それに見合った 決着の着け方も必要になるし、舞台を設定したからにはある種の リアリティも必要になってくる。 このリアリティを無視して、しょせんBLだから、と開き直って 書く事ももちろん出来る訳で、それをしょせんBLはファンタジー だから、と楽しめる小説読者と、楽しめない読者がいる。 小説好きは、文字だけで書かれる世界に破綻が浮き 上がるのは殆どの場合、好…

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べたなのに最後まで飽きさせない『一億二千七百万の愛を捧ぐ』。

綺月陣5作目、『一億二千七百万の愛を捧ぐ』。 子供の頃から憧れ、その人の様になりたいと懸命に頑張って、 かつてその人がいた同じ舞台に上がれるようになった時には 憧れた人は落ちぶれていなくなっている…と言うお話も BLでなくとも「フィクション」としては書き尽くされていると思う。 そう言う「書き尽くされた」題材を選んだ時の方が 作品として如何に仕上げるかは難ししと思う。 テンプレートが先に出来上がっているので、どうやって お話に決着を着けるかと言う部分で「類型的」に終わって しまう可能性は、誰も書いたことがない物語を想像するより ある意味で難しい。 どこかで読んだことのある物語を、如何に鮮度を出して 書くか、と言う部分は、作家さんの作風に左右される。 使い古された物語を如何に読ませるか、だと思う。 開幕戦でエスコート・キッズをすると言う幸運に恵まれた 槙野少年は、サッカーと言う競技に熱中していくきっかけと なった選手・和久井のキッズに選ばれた。 憧れている人の手を引いてエスコートする、と言う段階で 緊張がマックスになり、がちがちになって何も喋れなく なっている所を和久井の優しい一言にますます彼への 憧憬を深め、和久井と同じ場所に立てる様に精進して、 Jリーグでも人気・実力ともに高い選手になった。 一方の和久井は、イタリアに渡ったものの、試合に 堕して貰える事もなく、怪我をして、表舞台から消え、 消息不明の選手になってしまっている。 和久井は、場末の…

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幸福な三角関係から生まれる3Pもの『この世の楽園』。

引き続き綺月陣の『この世の楽園』を読んだ。 簡単に言ってしまうと、主人と隷属する者の執事系、 3Pもの、世間知らずの箱入りお坊ちゃんが貪欲に 俗世を求めて開花する物語であり、兄弟ものである。 大手銀行に勤め、自負心が高く自分と言う人間の 価値観を職業的地位・社会的地位などで測る エリート主義っぽい悠介は、自分の勤める財閥グループの 会長死去後の遺書公開の場に来るように何故か 言われてしまい、そこで、会長の孫である聖也の 教育係へと出向辞令を下される。 なんのこっちゃ解らない、寝耳に水な辞令であるが、 BLではテンプレートで、なんだか難かしそうな坊ちゃまを 躾る役目を担わされて、自身の自尊心を踏みにじる様な 傍若無人なお坊ちゃまに振り回され、こんな仕事、 続けられるか!!とブチ切れはするものの、のっぴきならない 事情があって、辞めることは許されない状況である、 と言う、類似作品が幾つかは浮かびそうな設定。 あくまで、BLを好んで読んでいる読者としてだが、 似たような設定は、本当によく見かけるのだ。 ○○系、とか、○○っぽい、とか言えば通じるような。 この、雨後の筍のように類似品がある設定を どう読ませるかはまさに作家さんの力量が現れる、 一つの賭けだと思う。 テンプレートがどうしてもあるんだが、それを敢えて テーマに選んで書く、と言う事は、作家の個性とか 作風とか、テンプレートに対する工夫が思い付かなければ 似たようなものが書かれる筈がない。 …

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サバイバーの青年の再生への物語『祈り』。

一人の青年が自身の肉欲を持て余し、体に傷がつくんじゃ ないだろうか、と言う執念のようなものを発しながら、 自分の欲を慰めている鬼気迫る導入部分。 綺月陣の『祈り』。 エロ度が高いと言う話ではなくて、この青年は肉欲に 憑りつかれるような過去があり、今は望んでもそれが 与えられず、しかしそう言う自身の肉体を嫌悪しながらも 慰めるしかないと言う、ぎりぎりのところで踏ん張っている、 と言う事が読み手に深く刻みつけられる。 そこから、この青年が、新しい職場への面接に向かう 満員の電車の中での出来事に場面転換する。 自身の体を擦り切れるかのように慰めていた青年の 心中が、非常に明るく前向きであるのが解る。 ここで、つい最近読み始めた綺月陣と言う作家の、 私の読んだ順番がそう言う印象を与えたに過ぎない 筈なんだが(『罪と罰の間』読了後『獣』を読んだ印象の 下りはこちら→ http://zazie.at.webry.info/201210/article_3.html )作風が一定してないのかな、と言う 錯覚を覚えるほどに、擦りきれんばかりに自分自身を 慰めて絶望感に打ちひしがれていた青年と、この 前向きで前途有望に見える青年が同一人物なのか?! と言うところから、来栖薫と言う青年の業と再生の 物語にすっかり誘導されたのが解る。 満員電車の中、身動き取れない自分の体を片腕で 支え続けた男らしい端正な面立ち・体駆の青年に出会い、 一目で好意を持ってしまう。 青年…

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