2人の人間が同じ空間に身を置き、
1対1の関係を否応なしに築き上げなければならない状況になった時、
その相手を愛するか憎むかの二者択一しかない、と言う映画でもあるかもしれない。
去年見た映画の私のBEST:1は「ブロークバック・マウンテン」だ。

周囲に数多くの人間がいれば、その相手だけを考えなくて済む。
他の人間との関わりを考慮に入れる余地が生まれるので、
より気の合う人間・好きな人間を探すことも出来る。
一人の人間対し、好きか嫌いかの判定を下さずとも
無関心でいられるのが集団や団体(会社や学校)の中に
身を置く現代人のノーマルな生活環境だろう。
「ブロークバック・マウンテン」は、ブロークバックと名のつく山に、
一夏、2人きりで放牧の仕事をすることになったカウボーイの
20年にも及ぶ秘めた愛の物語だ。
ゲイ・ムービーと一言で片付けてしまう人もいるだろうけど、
果たしてこう言う状況を自らが体験すると考えると、
他人事で済むのか、と最近よく考える。
ゲイの素質があった2人の男がたまたまこう言う状況になった、
とは言い難いものがある。
高校を卒業して就職。
入社式は市民ホールみたいな所で行われて、
式が終わると男女別に分けられ、バスに乗せられ、
向った先はリクリエーション施設のある山の上だった。
それから7泊8日の過酷な入社オリエンテーションが始まる。
共学の学校にしか行ったことがない私にとっては、
同性の女性しかいない世界と言うのは初めての経験に等しかった。
部活動も不真面目だったし、体育会系でもなかったし。
初日に吐きまくり、その日のうちに退職した子もいた。
早起きしてランニング・体操・朝食、
そして夜遅くまでのカリキュラムが詰まっている。
2日目くらいから食欲も失せ、
牛乳などの軽いものしか飲めない・食べられない。
自分の自由意志はなく、
教育課の人が進めるタイム・スケジュールに添ってひたすらお勉強。
しかし、辛いと言うより、楽しかった。
肉体的には本当にしんどかったけど、
正にみんなが苦楽を共にする場であり、
同じ方向を向いて同じ事だけに集中する場でもあった。
教育課のリーダーの男性社員が物凄い男前で
目の保養にもなっていた、と言うことを除いても(笑)
山の中に隔離され、一歩も出られない生活。
そんな中で、自然に生まれるのが役割分担。
このオリテには高卒者と短卒者が集められていたのだが、
自然に年上のお姉さん達が高卒者の面倒を見る、と言う図式が出来上がり、
あの先輩は美人だ、とか、賢いな、とか、
年長者を憧れで見つめる会話なんかが自然に沸き起こる。
まるで女子校のようなノリで、雰囲気が出来上がってしまった。
これはあくまで、隔離された非日常に置かれることで発生する
特殊な精神状態であって、山から降りてしまえば、
嘘のようにきれいに消えてなくなってしまう「憧憬」だった。
人間と言う生き物が、如何に環境に左右されやすいものか、
実験材料となって実践したかのような経験だった。
私の場合は。
でも、だからこそ、人里離れた山の中に2人の男が居て、
友情が愛情に変わったとしても、何の違和感も感じないのだ。
山から降りても「憧憬」が冷めないコトだってある。
これはゲイ・ムービーと言うよりは、
人間が人間を愛する姿を描いた珠玉の恋愛映画だと思えるのは、
そう言う部分から感じるのだ。
ゲイ・ムービー好きの偏った目で見て、見れない映画でもない。

2人の最初の出会いで、明らかにジャック(ジェイク・ギレンホール)は
イニス(ヒース・レジャー)に目を止めている。
下世話に言ってしまうと、目をつけている。
そう言う含みを持たせる動作を、
ジャックははっきりと示しているし、
監督もそれをきっちり映像として撮っている。
アギーレの事務所前で、
俺の存在に誰も気付いてくれるなと言わんばかりに目を伏せるイニスを、
ジャックは正面からはっきりと見つめている。
そして、車のミラー越しに髭を剃りながらも
イニスの姿を覗き見している。
「ブロークバック」は、男同士のセックスの場面が
映像でちゃんと撮られているので(これを見て解れよ、と言うものではなく)
エロティックな部分がここに集約されてしまいがちだが、
まずエロスを感じるのはこの場面、
ジャックがイニスを目に留めるシーンだ。
それがそうなのだと解るのは、
一度映画を見終えて、この2人の物語が頭に入ってから、
もう一度見直すときだ。
もう一つ、私のエロにハマるのは、
山から早々に降りることになってしまう二人が
じゃれ合いながらいつの間にか殴り合ってしまう場面だ。
不謹慎だが、鼻血を垂らすイニスの色っぽいこと・・・
鼻から鼻腔内に流れ込む血液を吐き出す姿に、
人に殴られた経験があり血の味も知っている、
イニスと言う男の経験が見えるからだ。
目で追ってしまうのは断然イニス
だ。ジャックに出会ってしまったから俺はこんな人間になってしまったと
むせび泣くイニス。
ヒース・レジャーと言う俳優は実に不思議。
タッパもあるし、男臭さもあるけど、何故か抱きしめられる姿がハマる。
ジャックに抱きしめられるイニス。
「悪霊喰」でも同門の神父に助け起こされる様がはまっていた・・・
何故か、男に抱きしめられる姿が様になるんだよね。
スキンヘッドだったり、無精ひげで強面風だったりもするんだけど。
このギャップが実に不思議な俳優さんなのであった・・・
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