ことぶき猫玉日記

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zoom RSS 小説『彼の命』@(東京喰種に寄せて…)

<<   作成日時 : 2017/03/06 20:25   >>

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『東京喰種』読んでいる時に聞いたせいもあるだろう、
米津玄師『Orion』と言う曲に触発されて、こう言うのも
二次創作と言うんだろうか。
グールの世界観の中には、描かれないだけで、物語の登場人物
以外のヒトと喰種の物語も日常として在ると思っていて、
例えばこう言う感じであったりもするんじゃないか、と言う
自分の想像力とか相まって、一気に書いてしまった。

米津玄師『Orion』は、アニメ『3月のライオン』の2クール目の
ED曲で、初めて聴いた瞬間からイイ曲だなぁ、好きだなぁ、
と思ってしまった曲でもある。
通勤電車の中で繰り返し聴きながら、もし、喰種と出会って、
ヒトである自分の前から彼が消えてしまったら、この曲を
聴いて泣きたくなるんじゃないだろうか、と思って書いた。


題名『彼の命』

       作:月本 繭

若者が週末を楽しむ繁華街の通りで、その歌が聴こえて来た。
「神さま どうか どうか」
サビのフレーズが頭の中に飛び込んできて、何の事はないのに
目の裏に熱を感じだと思ったら、俺は泣きそうになっている自分に気付いた。

神さま どうか どうか、
彼が生き延びられますように。
俺は心の底から、神さま どうか どうか と、その歌のフレーズをなぞり、
繰り返し、心の中がいっぱいになるのを、涙がなんで流れるのかに
戸惑いながら、それでも、神さま どうか どうか と言う言葉を
繰り返していた。



俺の家、俺と、両親と妹。
『吉野』と言う表札のかかった家。
4人家族の俺の家は、一晩で崩れ落ちた。
父が、通勤電車の駅から転落死した。
父は、ふらふらとさ迷い歩くように駅構内を歩いて行き、電車が到着した
その時に、線路側に倒れるように落ちて行ったと聞いた。
自殺なのか、体調不良による何らかの原因があるのか、
死んでしまった父には聞けず、また遺書なども残されてはいなかった。
鉄道会社から賠償金などの請求はなかった。
都市伝説的に語られる「賠償金一億円」は嘘だった。
俺の家の働き頭は亡くなったが、それが直接の原因として
俺の家族が失われたわけじゃない。

父には借金があった。
父には借金をする動機はなかった。
名義貸しをした為に、他人の借金を背負わされてしまった。
過度な残業を引き受け、父は本当にふらふらになって、線路に
落ちて行ったと思う。
父の借金は一般家庭のサラリーマンが、どう頑張っても返せるような
金額ではなかった。
俺は、剣道の強化選手として奨学金を受け、大学に通う予定だったが、
父の代わりに家族を養う方を選んだ。
この選択には全く躊躇いはなかった。
俺の家族を続けるのには、今すぐに金が必要だったからだ。
妹は春に中学3年になる。
次の春には、高校に進学させてやりたかった、どうしても。
俺の高校生活は、部活に明け暮れ、勉強などそっちのけだったが
それでも父の死を悲しむだけで終わらせないと言う気持ちを持てたのは
高校という場所で得たなにものだったからだと本能的に気付いていたからだ。
本当に気付いたのはもっと後になってからだったが、何をしても
妹からその場所を奪いたくないと強迫観念のように思っていた。

俺は、妹の事ばかりに気が行っていて、母親がどうしたいか、
父の死をどう受け止めているのかまで考えられなかった。
母の思考は、父の死で止まってしまっていたし、それは呆然自失と言うより
母は父と結婚して家庭に入り、専業主婦をやっていれば自分の人生は
現在進行形でずっと続いて行くと思っていたようだ。
パートに出た事もなく、なので俺も、父のいない分の収入を母が
何とかしようと考える筈がないと思い込んでいた。
働き手として稼げるのは男の自分だけだとも思い込み、母に期待と言うより
負担は掛けるつもりではなかった。
今まで通り家に帰ったら母がいてくれるだけで、ご飯が用意されている
だけで、家の中がいつも掃除されているだけでよかった。
母親なのだから、子供の為にそうするだろうと思っていたが、
父の四十九日を過ぎた頃、母は居なくなった。
朝起きて、台所に入ったら、空気が妙に冷えていて、
テーブルの上にはいつもある筈の朝食はなく、書置きの一枚もなく、
母は家から逃げてしまった。
父の兄である伯父に電話し、失踪届けを出して貰ったが、
その時初めて、伯父が母の事を快く思っていないのだと言う事が
伝わって来た。
自分の好きな事しかしない人間は家庭的でもなんでもないんだ、
子供の為に自分が働きに出ようという意思もない、昔から
自分勝手な女だ、と伯父は言っていた。

母は家庭を放棄した。
伯父は兄妹二人で済むには大きすぎる4人家族用の自宅を売り、
妹の高校進学の費用に当てろ、俺には無理に働きに出ず
大学に行ってもいいと言ってくれたが、俺は妹に高校に通うだけじゃなく、
父と母がいる普通の家庭がしてくれる金銭的な充足感を与えたかった。
体力しか自慢できるところのない俺は、迷わず運送会社に就職を決めた。
引っ越し業務も担っており、体力だけしかない俺は引っ越し部門へ
配属された。
そこに、島さんがいた。

痩せぎすなのに一番の力持ちの島さん、とその人は呼ばれていた。
ずっとスポーツ畑に居た俺から見ると、病的なまでに痩せていて、
筋肉の「き」の字も感じさせない様なひょろ長いだけのやせっぽちだった。
年は30くらいかもしれないし、もっと若いかもしれないが、40代にも見えた。
島さんはここで3年ほどになる先輩になり、俺にマンツーマンで
仕事を教えてくれる指導担当者だった。
「体が、大きいね、スポーツやってたな」
「ずっと剣道やってました。体力には自信あります」
「体育会系か、頼もしい」
ぼそぼそと、唇の先から息が漏れている様な、小さな声で喋る人だった。
俺とは住む世界が違うんだろうな、と直感的に思った。

引っ越し部門は過酷だった。
慢性的に人手不足で、社員は俺と島さんと管理部門から沖さんが来て、
手配は一手に引き受けていたが、実働員は殆どアルバイトで賄っていた。
俺が行くはずだった大学の苦学生もいた。
大学を出ても就職が決まらないフリーターが殆どで、年齢もまちまち、
素性もまちまちだった。
一つのミッション、案件を行うのに人が入れ替わり立ち代わりして、
高校で、インターハイを目標に部員が一丸となって突き進んでいく、
あの感覚とは程遠い環境だった。
現場での俺の仲間は島さんだけだった。
俺の戸惑いを察した島さんは、甘やかすでもなく、かと言って過剰に
構う事もせず、淡々と効率よく仕事を教えてくれた。
そして通り名の通りに、物凄い力持ちで、現場に行くと誰よりも
荷物を持ち上げ、運び、仕事を的確に終わらせ、粗相のないよう
気を配れる賢い人だと解った。
腕力に自信のあった俺だが、そう言う力の使い方ではなく、
とにかく「効率がいい」と言う事に、俺は圧倒されてしまった。
小手に竹刀を「打ち込める」と言うあの感覚、あの一瞬の感覚を
常に使っている様な、そんな風に俺には見えていた。

「島さん、また珈琲だけっすか」
「金欠、金欠」
島さんはいつも185グラムほどの小さい缶のブラック珈琲を飲んでいた。
物を食べるのは夜だけで、金が必要だと言っていた。
食費を削って借金を返しているとも、家族の医療費を稼ぐためとも
言われていた。
依頼主が労って出してくれる飲料も、ブラック珈琲以外は口にしないので
アレルギーでもあるのかもしれない。
とにかく食わないんだから、痩せてて当然なんだが、なのに力持ちなのは
どこからエネルギーを得ているのか、ずっとスポーツをやっていた俺には
不思議でしょうがない事の一つだった。
パワーに対するエネルギーの割合が合ってない。
痩せの大食いと言う言葉があるくらいだから、晩飯はたらふく
食うんだろうと勝手に納得するしかなかった。
島さんは当たり障りのない会話は上手にこなすし、声は小さくとも
無口と言う訳ではなかったが、いつまでも姿の見えない違和感のある
雰囲気を湛えている様に俺には見えていた。
俺の事情を察する人は居たが、島さんには家族とか肉親とか、
生活とか、そう言う生き物の発する熱みたいなものが殆ど
感じられなかった。

俺はとにかく、がむしゃらに働いた。
島さんの様に力に頼るのではない動き方と言う手本もあり、
金を稼ぎたいと言う思いもあり、働く事が俺の一番の優先事項になった。
会社の休日はコンビニでバイトもした。
俺の役目は金を稼ぐことで、それが俺の存在そのものになっていた。
若いうちに、頑丈な肉体で出来る事はなんでもしていい、
そう思い込んだ。
妹は公立校に進学し、両親がいる友達と同じだけの小遣いを
与えられる自分に満足していた。
妹の小遣い、光熱費、家賃、食費、それ以外に残った金は
地道に妹名義にした口座に振り込んだ。
俺は妹に大学に行って欲しかった。
それは意地のようなもので、子供を置いて出て行っただけの
母親に対する怒りを変換させたような気持だった。
妹も言わなかったし、俺も母親の行方を探そうとはしなかった。
多分、自分の実家がある場所近くに戻っているんじゃないか、
と言う気はしたが、元々母方の血縁者とは疎遠にしていたので
確認の為に何かしようとも思わなかった。
何かすればするほど、妹に親に捨てられたと言う事実を
突きつける様な気がして出来なかった。
妹の心境に、本気で向き合ってはいなかった。
とにかく、親を亡くした不幸な子供と思って欲しくなくて、
俺は俺に出来る事なら何でもすると勝手に考えていた。
      ―続く―



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